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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)171号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法な点が存するか否かについて検討する。

1 本願発明における「溶滴移行形態の異なる二種以上のアークを発生させ」との要件の技術内容について

本願発明の要旨が請求の原因二に記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)及び甲第三号証(昭和四八年一二月二四日付手続補正書)によれば、本願明細書において本願発明は次のように説明されていることが認められる。すなわち、明細書の「発明の詳細な説明」の欄の冒頭に、本願発明の特徴とその目的を簡潔に記載し(公報一30~二1)、次いで、消耗電極式連続アーク溶接法の従来技術としてシヨートアーク溶接法、スプレーアーク溶接法、パルスアーク溶接法が知られていたが、これらの方法にはそれぞれ欠点があることを指摘し(公報二2~三10)、これに続いて、「本発明は、これら従来技術の矛盾点及びこれに起因する問題点を根本的に解決するものであつて、溶接部開先を断面から見た場合の位置について各々の位置における良好な溶接のために必要な熱量が考慮され、位置によつて異なる熱量を供給すること、即ち、位置によつて、溶滴移行形態の異なるアークを発生させることによつて、被溶接材への融合を良好にすると同時に、溶着金属の垂れ下がり、及び不等脚長を防止するものである。」「更に具体的には、溶接部開先を断面から見た場合の各位置に対応すべく消耗電極の先端をウイービングさせ、このウイービングに同期させて溶滴移行形態の異なる複数種のアークを発生させるものである。」「例えば消耗電極の先端が被溶接部材の開先面にもつとも接近した時に高電流によるアーク、例えばスプレーアークを発生させ、該先端がそれ以外の位置にある時は低電流によるアーク、例えばシヨートアークを発生させれば、スプレーアークによつて該開先面における溶け込みが良好になるばかりか、シヨートアークが大部分の位置において継続されることによつて過大な熱量の供給が避けられ、この結果垂れ落ち、不等脚長が生じない。」「要するに、開先の各位置にこれと対応したアークを複数種繰り返し供給することであつて、消耗電極の先端をウイービングさせ、このウイービング動作に同期してウイービングの一周期内に二種もしくはそれ以上の溶滴移行形態の異なるアークを発生させながら溶接線に沿つてジグザグに溶接を進行させることに特徴を有するものである。」(公報三11~39)と記載し、この記載に続いて昭和四八年一二月二四日付の手続補正書による補正として挿入された「なお本発明における溶滴移行形態の異るアークとは、前述のスプレーアークとシヨートアークの組合せを始め、グロビユラーアーク、ビユーリツドアークと称されるアーク及びこれらに類似するアークを適宜組合せたもの、その他アーク現象として実質的に溶滴移行の異なるアークを適宜組合せたものを意味する」との記載により、本願発明を一般的に説明している。そして以下に本願発明の実施に関する具体的な説明と実施例を掲げた上、「以上本実施例に示した溶接電流はDC(C・P)の電源により、単に電流の大小でスプレーアーク現象とシヨートアーク現象を交互に用いたが、パルスアークや異形波形の電流等を用いて二種以上の異なるアーク現象を使用することができる。」(公報八40~44)との説明を加え、最後になお書きにより、パルスアークの場合にもパルス電流あるいはベース電流を大小変化させれば実質的に二種類の溶滴移行形態のアークを用いたのと同様であり、本願発明に包含されるものであることを明示している(前記補正書によつて補正後の公報九1~一〇1)。

以上の明細書の記載によれば、本願発明は、従来の溶接法においてはそれぞれ単独で用いられていたシヨートアーク、スプレーアーク、パルスアーク等を二種以上適宜組合わせて用い(右のなお書に説明されているパルスアークの場合には、溶滴の移行形態が異なるものの組合わせを生じさせ)、この二種以上のアークを一つの溶接トーチの単位ウイービングサイクル中に交互に発生させ、そのウイービングサイクルを繰返し、これによつて移行形態の異なる二種以上の溶滴の移行を交互に繰返して発現させるという構成からなり、この交互に繰返される移行形態の異なる二種以上の溶滴の移行によつて、アークの種類ひいては溶滴移行形態が一種であつた従来技術の欠点を除去するという効果が奏されることが具体例、実施例とともに十分に開示されていると認められる。そうとすると、本願発明における「溶滴移行形態の異なる二種以上のアークを発生させ」との要件の技術的意味は、本願明細書の記載に基づきこれを解釈すれば、二種以上のアークを発生させることにより移行形態の異なる二種以上の溶滴移行を発現させることであると理解することができ、また、本願明細書を読む当業者もこのように理解するものと認められる。

被告は、本願明細書の特許請求の範囲の記載の「……溶滴移行形態の異なる二種以上のアークを発生させ……」との文言に基づき現実に発現する溶滴移行形態の種類の数とは無関係に、したがつて、それが一種であつても、本来溶滴移行形態を異にするアークが二種以上発生する場合も右記載の要件に該当する旨主張するが、前示の本願明細書の記載上そのように解することはできないし、また、本願明細書記載の具体例につき被告主張のように認定すべき証拠は存しない。したがつて、被告の右主張は失当である。

2 第三引用例の開示内容について

審決がその理由において、「第三引用例には、『溶滴移行形態の異なる二種』のアークを発生させるという技術的思想が開示されており」と認定し、この認定に基づき、「本願発明と上記各引用例記載のものとを比較検討するに、前者は、第三引用例記載の『溶滴移行形態の異なる二種』のアークを発生させるところの『消耗電極式連続アーク溶接方法』の実施に当たり、溶滴移行形態の切換え(したがつて溶接電流の切換え)を「一つの溶接トーチの単位ウイービングサイクル中に」行うようにしたものに該当することが明らかである。」と判断していることは、前叙のとおり当事者間に争いがない。被告は、右に関し、第三引用例の一一七頁右欄五行ないし三一行(同訳文八頁八行ないし九頁九行)に、「溶接移行形態の異なる二種」の「アーク」を発生させる溶接法が記載されていると主張する。

しかしながら、被告の右主張は、本願発明における「溶滴移行形態の異なる二種以上のアークを発生させ」との要件を前叙の被告主張の意味に解釈することを前提とするものであり、第三引用例記載のステツチ溶接は、グロビユール型の溶滴移行形態に対応するアーク(サブスレツシヨルド域の電流によつて発生するアーク)とスプレー型の溶滴移行形態に対応するアーク(正常域の電流により発生するアーク)との二種のアークを使用するが、現実には前者のグロビユール型の溶滴移行が発現しないことは被告の自認するところである。そうすると、本願発明における右要件を、前項において述べたとおり、二種以上のアークを発生させることにより移行形態の異なる二種以上の溶滴移行を発現させることの意味に理解すれば、第三引用例の被告の右指摘箇所に、本願発明の右意味における「溶滴移行形態の異なる二種」の「アーク」を発生させる溶接法が記載されていると認めることはできず、また、成立に争いのない甲第六号証により第三引用例の全文を検討しても右の溶接法を示唆する記載があると認めることはできない。したがつて、審決の前記認定判断は第三引用例の開示内容を誤認したものといわなければならない。

3 そうして、右の誤認が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法としてこれを取り消すべきである。

三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

一つの溶接トーチの単位ウイービングサイクル中に、溶滴移行形態の異なる二種以上のアークを発生させ、そのウイービングサイクルを繰返すことにより溶接を行なうことを特徴とする消耗電極式連続アーク溶接方法

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